ウイルスと共生する世界(フランク・ライアン)日本語版序文(福岡伸一)

ウイルスこそが進化を加速してくれる。親から子に遺伝する情報は垂直方向にしか伝わらない。しかしウイルスのような存在があれば、情報は水平方向に、場合によっては種を超えてさえ伝達しうる。それゆえにウイルスという存在が進化のプロセスで温存されたのだ。その端的な例は、哺乳動物の胎盤の形成である。ここにウイルスが大きな寄与を果たした。ウイルスがいなければ哺乳動物は出現できなかった。 ウイルスが病気や死をもたらすことですら利他的な行為といえるかもしれない。病気は免疫システムの動的平衡を揺らし、新しい平衡状態を求めることに役立つ。そして個体の死は、その個体が占有していた生態学的な地位、つまりニッチを、新しい生命に手渡すという、生態系全体の動的平衡を促進する行為である。つまり個体の死は最大の利他的行為なのである。ウイルスはそれに手を貸している。